2017-01-01から1年間の記事一覧

SOMEDAYを聴けば

☆あれは十七歳の初夏だった。当時つるんでいたYがたまたまくれた佐野元春の「NO DAMAGE」のカセットテエプをいたく気に入り、くる日もくる日も聴いていた。 ☆「NO DAMAGE」を聴くうちに秋が来た。秋の夜は早く始まる。私は夜を待っていた。街のネオンサイン…

長生きの諸悪の根源とめぐり会った日から三十一年

☆「こんなになっちゃって、すまないね」と、若き日の自分に謝りたい。バカのように長生きしたことを詫びたい。同時に、いま現在の自分にも謝りたい。 詫びたところで煙のように消えることができるわけでもないが。 ☆手もとに十九歳のときの写真がある。夏の…

八月から来た男

☆一九八九年八月の初め、私より三つ年下のKを、そして私たちを、或る不幸がとつぜん襲った。 ☆それから何日かたった夜明け、私と同い年のGちゃんは、私たちの車の後部座席にラジカセとともに乗り込み、私たちの町へとやってきた。 白いTシャツ、ブルージーン…

七夕とお盆の思ひ出

☆北海道はほとんどが旧暦で七夕祭りをする。そのすぐあとにお盆がきて、田舎暮らしだったコドモのころは妙に浮かれて過ごしたものだった。 ☆とある七夕には母といっしょに色紙を切ったり貼ったりしてお飾りを作り、庭に立てた柳の枝に飾り付けたものだった。…

彼女がいた夏

☆二度目の夏祭りが終ったあと、七月末に身内の者が帰省した。 彼女は例によって嵐のように登場し、毎日をお祭りのように過ごした。「ひとり帰省ラッシュ」である。 食いしん坊だが小食で、食べるとすぐに眠くなり目が半開きになる仔猫みたいな人だ。 我が強…

或る夏の記憶

☆28年前の今日、友人Kが交通事故で世を去った。 知らせを受けても実感が湧かなかったが、なにしろ大変なことが起きたらしいことはわかったので、いてもたってもいられずKの住む街へと車を飛ばした。 何人かで連れだって、真夏の夕刻、黒いスーツを着てお通…

てふてふとさなぎ

☆「クラスに一人はいる未熟児みたいな男子」という言い方をした男の人がいた。雰囲気はわかるし、初めて聞く表現でもあったので、私は反射的に笑った。しかしそれが明らかな侮蔑をも表していると気づいたとき、笑ったことを後悔した。 ☆私はあまり学校へは行…

民放FMラヂオデイズ

☆中学生のとき、地元で初めての民放FMが開局した。やっと与えられた個室で、やっと買ってもらったステレオ式の「ラジカセ」を、夜は枕元に置き、休日の昼間は窓ぎわなどに移動させ、欧米の音楽、古い音楽、ニュース的要素の強い情報番組など、むさぼるように…

百歳

☆今日は母方の祖父の命日である。存命であればちょうど百歳だ。 ☆祖父は酒好きで、働き盛りのころはビール、日本酒、ウィスキーといろいろ飲んだが、晩年はもっぱら大瓶の安いウィスキーを冷たい麦茶で割って晩酌としていた。 深酒をして、お気に入りの若山…

記憶の遠近感

☆むかしむかし、秋から冬にかけて毎年来ていた、 「焼芋っ。 一個百円っ。 焼芋っ。 一個百円っ。」 の焼き芋やさんのおじさんの呼び声がなつかしい。 このおじさん、夏場は夏場で、 「甘〜い甘い、 スイカに、 メ ・ ロ ・ ン ♡」 の声とともにやってきたも…