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黄昏どきの黄色

☆15年ほど前に見た、夕刻の大田黒公園のイチョウ並木は忘れられない。時間の流れを遅らすはたらきがあるのかと思うくらい、黄昏どきの黄色は魔法のようにそこだけ明るく見せるのだった。

☆小さいころ、私は祖父の晩酌に同席する習慣があった。祖父は酔うと機嫌がよくなるためか口数が多くなり、いろいろな面白い話を聞くことができたし、またおつまみのご相伴にあずかる楽しみもあったからである。そうして覚えた味が、家では見たこともない缶詰のホワイトアスパラガスやコンビーフ、プロセスチーズ、薪ストーブで焼いたにんにくなどだ。「栄養があるから食べなさい。嫌だったら残しなさい。」と、祖父が勧めてくれる小皿を楽しみにしていた。

ある夜、祖父が一杯やりながら問わず語りに「あれはね、宵待草というんだよ。」と言った。もう話の流れは覚えていないが、当時、祖父母は私の家からごく近くにあった公営住宅に住んでおり、あたりにマツヨイグサがたくさん咲くような荒れ地が広がる場所だった。明かりを灯したようなマツヨイグサの黄色い花に、コドモながらに少しトリップしていたことを覚えている。「宵待草というんだよ。」と言った祖父の声とともに。

☆今でも私はこの花が好きで、歩道のさびれた植え込みなどに発見するとついうれしくなる。あのときの祖父の声と蛍光灯の灯りを思いだし、人知れずしみじみするのである。

☆祖父も地球を去り、私も当時の祖父の年齢に近づいているが、あの花は変らず夕暮れ時を黄色く照らしている。