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異次元からの訪問者

☆幼いころ、家にときおり門附がやってきた。ひとに話しても信用してもらえなかったが、じっさいに門附はやってきたのだ。

☆あるどしゃ降りの日、玄関に一人の虚無僧が現れた。でっかいくずかごみたいなものを頭にかぶり、ずぶ濡れの黒いゴム引きマントを着て、尺八を吹いていた。こういうひとはお金を渡さない限り出てゆかないのだが、コドモの私にはトリッピーで不思議な出来事でしかなく、少し怖いが帰ってほしくなかった。しかし母はさっさとお金を渡してしまった。

☆お祭りのときには鳥追のお姐さんが登場した。着物姿で手甲を着け編み笠をかぶり、首から三味線を下げていた。少しだけ見える顔は白粉が濃かった。どういうわけか演奏の記憶はない。

☆雪解けの時期に出現したのは七福神のなかの誰かだった。母がとくべつ急いでお金を渡すと「は、めでたれなあ!」と七福神の誰かふうと思われるポオズをとってから出て行った。私はもっと見ていたかった。

☆私の記憶に残っているのは残念ながらこれくらいである。

☆門附ではないが、ときどき出没していたのが反物売りの中国人「ちんさん」であった。家に上がりこんでお茶を飲みお茶菓子を喰らい、いかにも安っぽい反物を売りつけようとする。祖母は着物で暮らしてはいたが着るものは間に合っていたし、母は着物は不要であるし、毎度お断りしていた。

すると広げた荷物をまとめて帰る「ちんさん」はゼンジー北京と同じ抑揚で、

「奥さん、けちね!」

と言い放ち乱暴にドアを閉め去ってゆくのであった。

☆こんなひとたちが時おり現れたのは、あまりにも田舎で玄関に鍵をかける習慣がなかった土地柄もあったと思う。鍵をかけたら村八分にされたかもしれない。私の家も、夜寝るときと旅行のとき以外は無施錠だった。

☆いまは宅配やさん以外は誰が来てもすべて無視しているが、もし門附が来たら……。

そのときは千円札を一枚にぎりしめてドアを開けてしまいそうな気がする。