T. REXと私

☆あれは18歳の夏のこと、私はT.REXの『THE SLIDER』のレコードを手に入れた。Janis Joplinの『Pearl』もいっしょに買った。

☆家に帰ってカセットテエプに録音し、くり返し聴いた。ジャニスのほうはすぐに好きになったが、T.REXのほうは何度聴いてもピンとこない。これは私に問題があるに違いないと考え、来る日も来る日も『THE SLIDER』を聴き続けた。そうしてその夏は終った。

☆秋が来てもまだしつこく聴いていた。どうしてもこのアルバムを好きになりたかった。あの魅惑的なジャケット、それまで聴いたこともなかった種類の不思議な雰囲気の音楽、知らない世界の音楽。でも好きになりたかったほんとうの理由はわからない。

どうしても好きになりたいのに、つかみどころをつかみ損ねてばかりいるような気分だった。

☆そんな18歳の秋、ある日ふらりとレコードやさんへ立ち寄り、今度は『Electric Warrior』を買った。別の方向から攻めてみるつもりだったのもあるが、ジャケットに購買意欲をそそられた結果でもある。

☆さて、またカセットテエプに録音し、くり返し聴く。『THE SLIDER』よりはこの『Electric Warrior』のほうが多少取っつきがよかったので、さらに聴きまくった。早く音に触れたい一心だったが、やはりなかなか触れさせてはもらえない。音と私との間にある膜が邪魔なのだ。

☆もどかしい日々はぜんぶで二年近く続いた。あるとき突然、ほんとうに突然、邪魔な膜が消え、気がつけば私は音楽の中に引きずり込まれていた。人生でいちばんの幸運だった。

☆晴れて私はT.REXのレコードのコレクタアになり、すべてのアルバムと何枚ものシングル盤をこつこつと買い集め、気づけば髪の毛もマーク・ボランのようになっていた。

☆あれから何十年たったろう。当時のコレクションはすべて失われてしまったが、T.REXに限らず、若いころ野獣のごとく聴き狂った音楽のすべては、いまも私の当たり前で特別な宝石だ。