背中のチャックの話

☆ひとの背中には架空のチャックがあるとつねづね考えている。 ☆チャックを開けると3歳の自分や4歳の自分や5歳の自分、小さい自分が、オトナの形をした着ぐるみの体からわらわらと出てくるのだ。それら各年齢の自分をぜんぶ足すと現在の年齢になる仕掛けである。3歳+4歳+5歳+5歳+4歳+3歳+2歳+3歳+4歳+5歳+6歳+5歳+4歳=53歳といった具合。ブレンド具合もまたひとそれぞれで、人間のできた幼稚園児のようなひともいれば、アホアホな高校生のようなひともいる。私見では前者は後者よりもしっかり者である。 ☆また、チャックの開きやすいひとと開きづらいひととがいて、開きづらいひとはチャックが途中で引っかかるのではないかと考えている。チャックが不調なのである。個人的にはチャックのすべりのよい人が好きだ。思考回路が面白く、嘘がきわめて少ないことが多いからだ。 ☆かくいう私の背中のチャックは常に半開きである。まあ、酔っぱらいの社会の窓のようなもので、いつの間にか開いているのである。これはこれで修理に出したほうがよいのかもしれないが、ゆるいチャックは面白くもあるので修理に出すのはもったいない気もする。ただ、背中のチャックなどないつまらない人間のほうが親兄弟や伴侶には迷惑をかけず歓迎されるだろう。いつまでもおえかきや音楽を作るのが好きな人間は歓迎してくれるひとしか歓迎してくれないものだ。一般的に歓迎されるのはお金を稼ぐひと、それだけだ。