私の5年前

☆あの日あのとき、私はアパアトの7階の自室に一人でいた。まず壁の一部、天井近くから「めりっ」というすごい音がしたかと思うとやがて部屋がゆっくりと揺れ始めた。地震がくると私は必らず波乗りのポオズをする(実際の波乗りは未体験)。経験上これで震度4まではわかるからだが、あの日は経験したことのない揺れ方だった。横揺れが徐々に大きくなってゆき、やがて建物ごと揺さぶられた。台所にぶら下げた調理道具や洗濯物のハンガアは静かな音を立てて長いこと揺れていた。

山勘だが、私が住む町はたぶん日本でいちばん地震が少ないと思う。たまの震度4がせいぜいだ。あの日も7階だから震度4程度に感じたが実際は3だろうと判断した。ただ時間とともにだんだんと激しくなる長時間の横揺れは、遠くでとんでもないことが起きていることを予感させるにはじゅうぶんだった。それが怖かった。

なんでもいいから情報が欲しいと思った。当時はスマホ所有者ではなかったし、テレビも捨てたあとだった。ラジオもない。とりあえずスーパー銭湯へ行っている交際相手に電話してみたがつながらない。しばらくしてやっとつながったが、地震の最中、彼はお湯に浸かっており、地震のことをまったく知らなかった。私の昼間の記憶はここで途切れている。

☆夕方あたりから彼の部屋へ行き、二人で並んでテレビを見つづけた。想像をはるかに超える衝撃的で恐ろしい映像の連続だった。テレビ局のスタジオの緊迫感がやけに嘘っぽく感じられた。わるい夢を見ているような気がしてもう見たくないのに目が離せない日が、余震とともに何日も続いた。そんなふうに半ばパニック状態で恐怖心からテレビにかじりつくのは9・11のアメリカ同時多発テロ事件以来のことだった。