スーパーマーケットは楽園

9歳のとき、小さな田舎からある程度まとまった人口のいる地方都市に移り住んだ。近所には大きなお店、世に言うスーパーマーケットがあった。母に連れられて行ってみると、ものすごい量と種類の品物に圧倒された。そしてトリップしたかのようにそれらの品物を無言で見て歩いた。

コドモ用の百科事典で見たことのある小瓶のヨーグルト、1リットル入りの大きな牛乳パック、変な色の乳酸菌飲料、コーヒー豆を挽く機械、パック詰めにされて値段をつけられ変わり果てた姿の甘エビ、オトナの男のひと用のすけべな漫画の本、文房具コーナーのごく実用的なメモ帳、ケロッグの甘いシリアル、等々。田舎暮らしでは見たこともないものばかりだった。しかも定価より安い値段で売られているではないか! 幼い私はお店がちゃんと儲かるのかを心配した。

そのお店はずいぶんむかしになくなってしまったが、私は未だにスーパーマーケットが好きである。長居をして店内をくまなく見てまわりたい。とくにおやつのコーナーは素晴らしい。食餌制限があるため食べられるものはほとんどないが、「ちくしょう。」と呪いの言葉を吐き捨てながら眺めるだけでも精神衛生上よろしいのだ。

もしもよその町へ行ったならスーパーマーケットに立ち寄り、目からビイムを出して一つ一つの品物を見てまわりたい。そこには必ず見たことのないものがあるはずだ。

ああ、どこでもいいからスーパーマーケットを時間無制限でぶらぶらとほっつき歩きたい。