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思春期をぶっとばせ

☆「だって将来、油まみれで働くの、いやだもん。」

東京の有名大学を受験しようとしていたらしい上級生があるときこう言った。町でいちばんの進学校に通っていたハンサムな彼は、もともと賢いうえに予備校通いもして家でもたくさん勉強していたのだろう。なぜそんなにたくさん勉強するのか、彼に尋ねてみたところ、冒頭の言葉が返ってきたのだった。目の前の少年がオトナになった自分をきちんと想像していることに、私は驚きを禁じ得なかった。

☆いまにして思えば、彼は必死で自分の未来を作ろうとし、そこへたどり着くための努力を惜しまなかったのだとわかる。生きてゆくには何らかの形で勝ち上がらなければならず、勝ち上がる手段として彼はまず勉強を選んだのだったと。そうして彼はまず優等生になった。しかしこんなことは現役の中学生にでもわかる当たり前のことなのだろうとも思う現在の私だ。

☆いっぽう同じころ私が漠然と思い描いた未来はといえば、30歳になる前に車で単独事故を起こし即死することだけだった。泥酔して時速100キロで立ち木に激突することだけが十代のその日その日を生きる希望だった。未来など想像しても仕方がない人生で未来を想像することを覚えるわけもない。貧困なるイマヂネエションの源には心当たりが思い切りあるが、まさか自分が生き続けるなどとは夢にも思っていなかった。そういう大馬鹿者がだらだらと無為に長生きをした結果、現在は病気持ちの中途半端なおばあさん、すなわち粗大ごみというわけだ。これは悪夢でしかない。

この世に生まれてはならないひとというのもいるのである。

☆いまごろ彼は毎日々々スーツを着て、手堅い会社のちょっとした重役にでも納まって、女房コドモに「かっこいい!」とはやし立てられながら少年時代から得意だったギターで親父バンドでも結成し、高価な楽器でエリック・クラプトンなんぞ律儀にコピーしているにちがいない。いや、そう思いたい。終身雇用で年功序列の出世街道をまっしぐら。それが、彼が思い描いた未来だったはずだからだ。