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お江戸の桜

☆いまごろお江戸ではきっと、ソメイヨシノや何とかヤマザクラはおおかた散ってたくさんの八重桜が咲いているころだろう。お江戸の八重桜はふんわりと大きな花で、見るたびにジャンプして喰いつきたい衝動に駆られたものだった。八重桜は、桜餅によく似ているように私の目には見える(お江戸の「道明寺」は北海道では「桜餅」と呼ばれる)。病的に桜餅が好きだからだろうか。

☆コドモのころ、庭に背の低い華奢な八重桜が一本あり、春の終りごろになると細い枝に小ぶりで控えめな花をつけた。こちらは桜餅には見えなかったが、気に入りの庭木の一つであった。これも私が八重桜を好きな理由だと思う。

☆桜の時期にお江戸で知ったことは、桜はひとを狂わせるということだった。

真っ昼間、穴場的な桜の名所へ散歩に出かけて見たものは、桜の木の下の石段に腰をかけ、桜を見ながらコンビニ弁当を一人で食べるOLさん、自転車の籠にカメラを二台積んで橋の上から桜を狙ういかにも可愛らしいおばあさん(短い橋の上にはカメラを構えたひとがぎっしり並んでいた)、人混みのなか一心不乱に地面を突ついて歩くふっくらとした茶色い雌鶏と、その様子をしゃがみこんでじっと見つめる小学四年生くらいの男の子、お散歩の途中で急にごろりと寝そべって桜を見上げ、飼い主のおじさんからぼそっと「花見か?」と訊かれる犬、全力で合唱の練習をして拍手喝采を浴びるどこかの合唱団、等々。

みんな騒いだりせず、それぞれ静かに桜を楽しんではいるのだが、どこか様子がおかしいというか、なんとなく空気がざわざわと騒がしいのだ。北海道の桜にはそういう雰囲気は感じない。

お江戸の桜には、きっと何か隠された秘密があるにちがいない。それまでお花見にまったく興味のなかった私が「明日もまた見に来よう」とうっかり思っていたのだから。

☆テレビやインターネットでお江戸などの桜の映像を見て、来月に予定されている当地の桜をわくわくせずに待っている今日このごろだ。