家系病はオカルトの病(笑)

☆私の母は幼少のころエクソシストのお世話になったことがある。普段は食の細い彼女が、食べても食べても強烈な飢えを感じてひたすら食べ続け、その様子を不審に思った彼女の祖母(つまり私の曾祖母)が知り合いのエクソシストのもとへ連れて行ったのだった。

エクソシストは墓石やさんのおばあさんである。行くと、押入れの中に黒くて大きな仏壇がある部屋に通され、母はエクソシストのおばあさんと二人きりになった。「先祖の霊が憑いている。」と判断された母は背中を何かでぽんぽん叩かれるなどお祓いのようなことをいろいろとしてもらい、その結果、食欲はけろりと治まったという。

 

☆母の父、すなわち私の祖父であるが、このひとは極めつきのオカルトであったらしい。戦争中は戦地で、夜、トイレの個室のドアを開けるとその日亡くなった戦友の死の場面がそっくりそのままそこにあった、などと普通の話のように話すので、祖父がオカルトの人であると知ったとき、彼はすでに地球を去っていた。また、非常に臆病な人でもあり、暗い場所とおばけが何より怖かったのだから、どれだけ怖い思いをしたか、想像しただけで気の毒になる。

 

☆その祖父の妻、すなわち私の母方の祖母は、長年オカルトな祖父と暮らすうちヘヴィなオカルトになっていったらしい。夜、祖父と二人で寝ていると天井の蛍光灯がいきなり点灯し、「ああ、消さなくちゃ…。」となかば寝ぼけた祖母がぐずぐずするうちに勝手に明かりが消える、ということは日常茶飯事だったし、朝方、祖母が目を覚ますと、近所の奥さんが枕もとに正座して祖母の顔をじっとのぞきこんでいて、じつは祖父に急用のあったその奥さんが朝いちばんに訪ねてきたり、といったようなこともさほど珍らしくなかったので、私は祖母のほうがオカルト体質なのだと長年誤解していたくらいだ。

 

☆さて私のオカルト度合いだが、若いうちは多少そういう傾向もあった。巻き込まれてやむを得ず行ったいわゆる心霊スポットで、はからずも場を盛り上げてしまうようなこともあった。しかし年を取ってからはオカルトとはめっきり縁遠い。「おばけさん」よりも生きている人間のほうが私を怖がらせるせいかもしれない。いまはせいぜい収入がある前に掌がかゆくなるくらいだ。この現象は少なくとも三代前からこの家系の女に見られる、いわば家系病のようなものであるが、果たしてオカルトといってよいものかどうかはわからない。