長生きの諸悪の根源とめぐり会った日から三十一年

☆「こんなになっちゃって、すまないね」と、若き日の自分に謝りたい。バカのように長生きしたことを詫びたい。同時に、いま現在の自分にも謝りたい。 詫びたところで煙のように消えることができるわけでもないが。 ☆手もとに十九歳のときの写真がある。夏の…

八月から来た男

☆一九八九年八月の初め、私より三つ年下のKを、そして私たちを、或る不幸がとつぜん襲った。 ☆それから何日かたった夜明け、私と同い年のGちゃんは、私たちの車の後部座席にラジカセとともに乗り込み、私たちの町へとやってきた。 白いTシャツ、ブルージーン…

七夕とお盆の思ひ出

☆北海道はほとんどが旧暦で七夕祭りをする。そのすぐあとにお盆がきて、田舎暮らしだったコドモのころは妙に浮かれて過ごしたものだった。 ☆とある七夕には母といっしょに色紙を切ったり貼ったりしてお飾りを作り、庭に立てた柳の枝に飾り付けたものだった。…

彼女がいた夏

☆二度目の夏祭りが終ったあと、七月末に身内の者が帰省した。 彼女は例によって嵐のように登場し、毎日をお祭りのように過ごした。「ひとり帰省ラッシュ」である。 食いしん坊だが小食で、食べるとすぐに眠くなり目が半開きになる仔猫みたいな人だ。 我が強…

或る夏の記憶

☆28年前の今日、友人Kが交通事故で世を去った。 知らせを受けても実感が湧かなかったが、なにしろ大変なことが起きたらしいことはわかったので、いてもたってもいられずKの住む街へと車を飛ばした。 何人かで連れだって、真夏の夕刻、黒いスーツを着てお通…

てふてふとさなぎ

☆「クラスに一人はいる未熟児みたいな男子」という言い方をした男の人がいた。雰囲気はわかるし、初めて聞く表現でもあったので、私は反射的に笑った。しかしそれが明らかな侮蔑をも表していると気づいたとき、笑ったことを後悔した。 ☆私はあまり学校へは行…

民放FMラヂオデイズ

☆中学生のとき、地元で初めての民放FMが開局した。やっと与えられた個室で、やっと買ってもらったステレオ式の「ラジカセ」を、夜は枕元に置き、休日の昼間は窓ぎわなどに移動させ、欧米の音楽、古い音楽、ニュース的要素の強い情報番組など、むさぼるように…

百歳

☆今日は母方の祖父の命日である。存命であればちょうど百歳だ。 ☆祖父は酒好きで、働き盛りのころはビール、日本酒、ウィスキーといろいろ飲んだが、晩年はもっぱら大瓶の安いウィスキーを冷たい麦茶で割って晩酌としていた。 深酒をして、お気に入りの若山…

記憶の遠近感

☆むかしむかし、秋から冬にかけて毎年来ていた、 「焼芋っ。 一個百円っ。 焼芋っ。 一個百円っ。」 の焼き芋やさんのおじさんの呼び声がなつかしい。 このおじさん、夏場は夏場で、 「甘〜い甘い、 スイカに、 メ ・ ロ ・ ン ♡」 の声とともにやってきたも…

万引き観光

☆何年か前に見た、非常に嫌な光景の話である。 ☆夜、近所の小さなコンビニに入ると、すれちがいに夫婦らしき小柄な年配の男女二人連れが店を出るところだった。見た目からの推測だが、彼らは中国語を話すひとたちに見えた。その夫婦はそれぞれの手に一つずつ…

家庭内ロックンロオラア誕生前の長い夜の始まりの日

☆30年前の今日、私の人生の中心がロックンロオルになった。ある人物に出会い、魅力的なロックンロオルを浴びるように聴かせてもらい、それらを片っ端から気に入って四六時中聴くようになったのだった。まるで水をぶっかけられたスポンヂのごとく、「あ!」と…

百貨店のない町になるとき

☆十代のころ、絵の具のチューブに入ったド紫色の口紅を買った百貨店は、だいぶ前にこの町から撤退した。そのときに初めて百貨店の閉店セールというものを体験した。閉店前日だったと記憶しているが、これがこの町かと思うくらいの人混みだった。それとは対照…

二度と行けなかった場所の話

☆免許とりたてのころ、夜ごと浮かれて父の車を駆っては市内をぶらぶら散歩していた。車はどんどん運転しろという父の方針を最大限悪用してのことだった。パワステでもないマニュアル車、しかも典型的なおっさん車の色・形であったが、うら若かった私には初心…

はじめての夜道のひとり歩きのこと

☆あれはおそらく中学一年の夏休み、近所の盆踊りの夜に人生初の「夜間外出」の許可がおりた。独裁者気取りの両親の気まぐれだ。 ☆私は夜の外出に憧れていた。夜に関する知識といえば、黒い空に月と星があることくらいだったが、それ以外の「夜」も見てみたか…

祖母の茶飲み話

☆祖父もだが祖母も喫煙者で、夫婦そろってフィルターのない「しんせい」を吸っていた。祖父母は喫煙することを「煙草をのむ」といい、祖母はよく煙を輪っかにして幼い私を楽しませてくれた。受動喫煙上等であった。 ☆祖母は小学校に上がるか上がらないかの小…

こんな夢を見た

☆夜A ◆故郷の小学校を訪ねると高学年用の玄関が図書室になっていた。下駄箱はすべて本棚に置き換えられ、机も椅子もなく床に座って本を閲覧するスタイルだった。 ◆遠くに住む一つ年上の友達・Kちゃんがランドセルを背負ってはるばるやってきた。私は彼にネ…

朝から拷問するお父さんのいる風景

☆いつもと違う位置に置かれた食卓には私ひとりだ。機械的に朝食を飲みこむ私の背後、カアテンを引いたままの薄暗い部屋では、小さな子が「保育所へ行け!」「なぜ保育所へ行かない!」と罵声を浴びせられ、平手打ちの連打を喰らい布団の上を右に左に転がされ…

パパママ・ガイキチ

☆つきあいきれないのと、かかわり合いたくないのとで、小学4年あたりから私は父を避けるようになっていった。 ☆そうすると、なぜ自分だけを疎外するのか、ときいきいした非常にヒステリックな声で父が怒鳴る。静まり返る食卓。不味い食事が余計に不味くなる…

若気の至り(若き野郎ども篇)

☆とあるお正月、地元の百貨店の地下通路のベンチで休憩していた。そこを通りかかった中学生男子二人組。一人が鞄から空のペットボトルを取り出し「ぜんぶ飲んじゃった…。」と相手に見せた。見せられたほうはさっそく鞄をごそごそし、自分のペットボトルのお…

萌え萌えと、女装できないおばあさんの明日

☆十年ほど前の話である。市中心部の横断歩道を渡っていたところ、男子高校生らしき声で「もーえー!!」と叫ぶのが聞えてきた。どうやら自転車を飛ばしながらのようだった。その場で膝小僧靴下(いわゆるニーハイ)を着用していたのは私ひとりだったから、も…

家系病はオカルトの病(笑)

☆私の母は幼少のころエクソシストのお世話になったことがある。普段は食の細い彼女が、食べても食べても強烈な飢えを感じてひたすら食べ続け、その様子を不審に思った彼女の祖母(つまり私の曾祖母)が知り合いのエクソシストのもとへ連れて行ったのだった。…

若気の至り

☆女子高生のA子ちゃんとB子ちゃんが雑談していて、A子ちゃんがC子ちゃんの兄をさりげなく「アーニー」と称していると、B子ちゃんが「C子ちゃんのお兄ちゃんて外人なの?」と真顔できいたという話をA子ちゃんがしていたのは30年ほど前になる。私がA子…

カラスの群れと鉄砲撃ち

☆田舎暮らしをしていたコドモのころのこと、自宅の正面からまっすぐ延びる道路の行き止まりに養豚業を営む同級生のY君の家があった。 ☆ある日、Y君宅の屋根の上をおびただしい数のカラスがぎゃあぎゃあ鳴きわめきながら飛び回るのが見えた。ときおり変な音…

性的な意味でふざけた田舎の人々

☆まだ田舎に住んでいたころのこと。あるとき、私は居間で上半身裸だった。母に着替えさせられていたようだ。そこにはなぜか父もいた。彼はにやにやした顔で私の左の乳首をつんつんつまみ、「これ何ァに。これ何ァに。」とせかすような口調で言った。母はにや…

田舎は性犯罪のパラダイス

☆田舎は性犯罪のパラダイスである。コドモからオトナまで、性別が男でありさえすれば24時間すけべヅラをしていてもとくに問題視されないし、ひとの目を盗んで猥褻で卑劣な行為におよんでも「あいつはすけべ」と噂される程度で済む。あの土地の性的なからかい…

阿佐ヶ谷のありん堂のみそ柏はすばらしい

☆そのむかし、阿佐ヶ谷で暮らしたことがある。JR阿佐ヶ谷駅北口を出て左、スターロードという商店街というか飲み屋街のいちばん奥にある和菓子やさんの「ありん堂」がなにより好きだった。いまでもお店で売られていたいろいろなお菓子が腦裡をよぎって困るほ…

用務員さん24時

☆私が通った保育所には、ひよこ組(3歳児)、りす組(4歳児)、ばんび組(5歳児)、きりん組(6歳児)の各教室、コドモたちが体を張って遊ぶおゆうぎ室、それに用務員さん一家の暮らす部屋があった。用務員さんのお子さん、私よりひとつかふたつ年上の女…

蜂蜜やさんと花とミツバチ

☆私との続柄は不明なのだが、むかしむかし、親戚に養蜂業を営む男性がいたそうだ。そのひとが亡くなったとき、お葬式に複数の見知らぬ若い女性が小さなコドモを連れて現れコドモを認知してほしいと言い出し、親戚一同仰天したという事件があった。けっこうな…

清志郎がぶっ飛ばした夜

☆忘れもしないあの騒がしい夜のこと、開口一番、彼は叫んだ。 「相変らず人口少ねえな、旭川!!」 そして 「コドモいっぱい作れ!!」 と続けた。 RCサクセションが “来日” しているというのに大ホオルの客席の半分以上はなんと無人だったのである。 当時まだ小…

馬車がやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!

☆幼いころ、お風呂のお湯は釜をつなげた浴槽に水を入れて湧かしていた。湧かす燃料は石炭だった。 ☆石炭はどうやって家に運ばれてくるか。馬車である。「1トン、お願いします。」などと電話で頼めば、石炭やさんのおじさんが馬車を駆って、車道のど真ん中を…